【老々介護ダブルケアラーものがたり】⑤


「チャちゃん!だめええぇっ!」畳の上でおしっこの水たまりが広がる。
今回も、じじいの吐き出し愚痴となることお許しください。m(_ _)m
…チャちゃんは、じじいの妹で58歳。小さいときから重度の知的障害がある。
一昨年の8月から幼少期の股関節脱臼が原因なのか、歩けず寝たきりになった。
その現実を受け止める中、母も寝たきりになり、その母を死なせてしまった。
チャちゃんが生まれてから、母は入院するまで二人三脚でチャちゃんと生きた。
その母を、じじいは多重介護を理由に見捨てた。姥捨て病院の4人部屋に入れた。
寒がりなのに、寒い年末も扉の開け放たれた廊下に最も近いベッドにいた母。
端から個室にも入れず、延命治療も断った。母が戻る事よりチャちゃんを優先し、
母はまだまだ生きるものだと過信していた。なのに葬儀の事も考えてもいた。
じじいの罪は重い…。自分を許せず、母を思い悔やみ放心の日々は続いた。
母とチャちゃん二人の多重介護から、チャちゃんだけの介護となった。
<いま思えば、母がいたからチャちゃんの世話も出来たような気がする。>
チャちゃんは10年近く前、死を覚悟で全身麻酔で両目白内障手術をし生還した。
どっかの施設に入れられると勘違いした時チャちゃんは深夜に精神錯乱になり、
廊下で落ち着かせようとした母を突き飛ばし後頭部を強打させ、じじいを
砂壁に吹き飛ばし腕を擦りむかせた。救急病院に救急車で向かう三人。
待合室で深夜にじじいは母と二人でチャちゃんを心配し、無事を祈った。
<どんなときも、じじいの傍には母がいてくれた…。心強かった。>
チャちゃんの衣類を大量に仕入れてきたときも、驚く母の笑顔で報われた。
チャちゃんがビリビリに破くチャちゃんのズボンをミシンで大量に繕った時も
「こんな一杯縫ったよ!お母さん」と見せた時の母の驚く笑顔で乗り越えた。
庭に花が咲いたよ。玄関の季節の飾り変えたよ。玄関マット換えたよ。
二階と廊下とトイレの掃除して奇麗になったよ。…驚く笑顔も見れなくなった。
母がいたときに母を喜ばそうと出来てたことが、一切出来ないじじいがいた。
<もう、頑張ってなにをしても無駄。喜んでくれる人がいない…。>
じじいは昔からチャちゃんを避けていた。ジキルとハイドのようだったから。
家に帰るとチャちゃんの叫ぶ声が聞こえた。コロコロ豹変するのも怖かった。
傍にいる者が面倒見ろと母に言われ。じじいはチャちゃんの世話を続けた。
<母がいない中、もうチャちゃんに優しく出来ないじじいも出始めた。>
1月に母が亡くなるのとリンクするかのように、チャちゃんが起き上がった!
深夜にじじいの傍に這うように寄って来て、チャちゃんがテレビを見ていた。
起き上がることなど、じじいは予想もしてなかったんで、驚き眺め続けた。
チャちゃんの寝床に防水カーペットを敷いていたが、TVの部屋は畳のままだ。
「おしっこした!」と言うチャちゃんの呟きに絶句するじじい!
「チャちゃん!だめええぇっ!」畳の上でおしっこの水たまりが広がる。
おしっこはTV台の下の隙間に広がる!吸い取り拭き取るものの用意もない!
<チャちゃんが、じじいの手に負えない程酷いものになった瞬間だった…。>
チャちゃんを施設・病院で受け入れてもらうには、強力な薬で眠らせ続けて
手足拘束でないと無理なのだそうだ。深夜スタッフの虐待も頭を掠める…。
訪問看護師がチャちゃんの摘便に来るも、出るのは本当に本当に少量だ。
数時間後か、日をまたいだ正午に出て💩まみれのチャちゃんを発見する。
昼夜、お尻や手足を拭いたり衣類や汚れた寝具を洗って干しての繰り返し。
さっき換えたばかりのおしっこ止めのタオルと敷布団も、濡れて汚れる。
じじいも昼は頻尿で、チャちゃんだけを責める事は出来ないのだが…。
毎日、地獄から這い出て来るような、何とも言えない喚き声に耳を塞ぐ。
毎日、チャちゃんは昔蹴破った木製引き戸をドンドンと激しく蹴り続ける。
振動と音で、じじいは気が狂いそうになる。…思考も体も停止する。
「ケガする!家壊れる!やめてチャちゃん!」空しくじじいの怒号が飛ぶ。
チャちゃんが喚くのも暴れるのも粗相も、母がいなくなったから…。そう思う。
チャちゃんは毎日じじいを間違えて<お母さん、お母さーん>と呼び続ける。
ブツブツお母さーんと声に出して、寝床に横たわり悲しそうにしている。
じじいの寂しさとは比較にならないくらい寂しいのだ、チャちゃんは…。
飲みかけのミニペットボトルに入れたカルピスを蓋もせずに放るチャちゃん。
口に入れたばかりの飴を部屋のあちこちに吐き出してしまうチャちゃん。
おしっこで濡れた寝具類を、深夜に押し入れに押し込んでしまうチャちゃん。
朝起きて1時間の自分の時間をじじいは過ごす。その後、朝食の準備を始める。
夜中に起こされたまま眠れずに起き、鬱々としたまま一日終わる日もある。
<母という話し相手がいなくなるということは、こういう事が起こるのだ。>
手が付けられないチャちゃんとの会話も、ほぼほぼ、じじいの一方通行だ。
母の遺影とお骨を見る。誰とも語れない。母の思い出は、じじいの中だけだ。
…じじいの中で全てが昇華され、溜息と沈黙に変わっていく。1人だと気づく。
じじいは1人なのだ。そう、チャちゃんの世話をしていても1人きりなのだ。
チャちゃんも同じだ。…仕方のないじじいに世話されていて、1人きりなのだ。
<チャちゃんとじじいの心の拠り所だった母は、もう、いない…。>
ビリビリのチャちゃんのズボンも溜まる一方だ、ミシンで縫わなければ。
庭に咲いたナデシコも摘んで母に見せ、仏壇に供えなければ。
今日も買い出しだ。シャワーで涙洗い流し、出かけなければ。
季節の変わり目のたび・一日に何度も理解しがたい怒りで喚くチャちゃん。
<食べさせるのも、おしっこやウンチの処理ももう、疲れたよお母さん…。>
世話をするのはもうじじいだけなのだ。家中にある母の思い出の品に尋ねる。
<面倒見て行かなくちゃだよね。お母さん。じじいがね。チャちゃんをね。>
お読みいただきありがとうございました。m(_ _)m
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